米国のグループ、
ネイキッド・シティのアルバム「
アブサン/
ジョン・ゾーン・ネイキッド・シティ」を紹介します。
1993年に発売されたネイキッド・シティのラスト・アルバム(今のところ)にして異色作です。
ネイキッド・シティはアルト・サックス奏者のジョン・ゾーンが結成したバンドで、他のメンバーはビル・フリーゼル(ギター)、ウェイン・ホーヴィッツ(キーボード)、フレッド・フリス(ベース)、ジョーイ・バロン(ドラムス)です。今やそれぞれが巨匠と成っている彼等が、その超絶技巧を駆使して演奏する、アヴァンギャルドなハードコア・コミックバンドとでも呼びたいグループです。
しかし本作には、そんなバンドの演奏は収録されていないのです。
本作に収録されているのは、ノイズといっても過言では無い非音楽な音で構成された、アンビエントな世界です。ネイキッド・シティのメンバーが何かしら楽器を演奏をしているのかもしれませんが、バンドとしての演奏は聴かれません。
本作は、ネイキッド・シティのメンバーを演奏者に迎えた、作曲家としてのゾーンのアルバムなのだと思います。最後のアルバムだから特別な内容にしたのか、こんな内容だから最後に成った(笑)のかは謎です。
本作を再生する行為は、音楽鑑賞とは違う行為だと感じます。音楽である事は間違いないのですが、再生すると、そこには非日常の空間が生まれるのです。
鑑賞する為の音楽では無く、非日常という環境を体験する為の音楽、文字通りのアンビエント=環境音楽なのではないでしょうか。
「ヴァル・デ・トラヴェール」シャリシャリとした金属音(火災報知器の音っぽい)が鳴らされる中、エレクトリック・ギターがポツポツと無調なアルペジオ(?)を爪弾く静かな曲。長めのエコーが掛かっており、倍音を楽しむ趣向っぽいです。
「狂気への切符」インダストリアルな金属音が交差するノイジーな曲。シンセサイザーか何かによるエレクトリックな音も添えられ、単なる騒音とは違う音楽の体をなしています。
「緑炎(りょくえん)」雷雨と様々なサウンド・エフェクト(コラージュ)をバックに、エレクトリック・ギターとエレクトリック・ベースが時々ロックぽい音楽を演奏する曲。ギターとベースはまともに音楽していますが、周りの音はかなり不気味です。
「悪の華」地鳴りの様な低音が鳴り続ける中、僅かに楽器っぽい音(ギター?)などが聞こえる、非音楽的な曲。
「アーテミシア・アブシンシウム」蠅の羽音の様な音を中心に、様々な電気的ノイズが交差する破壊的な曲。
「忘却の女神」心臓音の様な音をバックに、多くの倍音を含んだエレクトリックな音が比較的明るい音を奏でる曲。奏でるといっても、旋律感の無い音の羅列です。
「ヴェルレーヌ・パート1;10分で真っ暗」ピアノやギター、ベースがメロディーを演奏する、比較的音楽的な曲。女声っぽい声も入っていますが、誰の声なのかは不明です。ネイキッド・シティにはサブ・メンバー的に山塚アイ(ヴォーカル)も参加していましたが、本作にはクレジットされていません。
「ヴェルレーヌ・パート2;ラ・ブルー」ホイッスル系の電子音が音楽的な低い和音を演奏し続ける中、ギターがその和音からは外れた音を爪弾く静かな曲。ベースも和音に沿う感じで僅かに演奏されています。
「アブサン狂い」最後は、乾いた電気的ノイズが鳴っているだけの、音楽とは呼び難い曲。
本作といえば、ハンス・ベルメールの作品をあしらったジャケットが印象的ですが、僕は20年程前に地元の美術館で実物を鑑賞した事があります(所蔵品なのか、何らかの展覧会で回って来たものだったかは憶えてません)。
子供達(もうすぐ小5&小2)は、そのジャケットと音楽が相まって、本作を非常に恐れています(笑)それを面白がって、本作を再生しながら「部屋の外にこいつ(作品に写るベルメール作の人形)が立ってるかもよ」と言って脅す悪い父親が居るのでした(笑)