市川崑監督の映画「
細雪」を観ました。
1938年、大阪府船場の蒔岡家には鶴子(岸惠子)、幸子(佐久間良子)、雪子(吉永小百合)、妙子(古手川祐子)の四姉妹が居た。長女鶴子は銀行員の辰雄(伊丹十三)と結婚して本家を継ぎ、次女幸子は計理士の貞之助(石坂浩二)と結婚して兵庫県芦屋の分家と成っていた。独身の三女雪子と四女妙子は本家で暮らしていたが、辰雄とそりが合わず、分家で暮らす様に成る。かつて妙子は奥畑(桂米團治)と駆け落ちをしようとして新聞沙汰と成ったが、新聞で名前を雪子と間違えられ、それに対する辰雄の対応が気に入らなかったのが切っ掛けだった。
雪子は適齢期を過ぎようとしており、幸子夫婦は知り合いの陳馬(小林昭二)や井谷(横山道代)から見合い相手を紹介してもらうが、雪子の煮え切らない態度もあり上手く行かない。一方で妙子は人形作家として活動しており、その作品を撮影するカメラマンの板倉(岸部一徳)と親密に成っていた、といったあらすじです。
谷崎潤一郎の同名小説を映画化したものですが、主体は小説の映像化では無く、当時(1983年公開)の日本を代表する4人の女優の美しさを絡めながら、日本の美を描いた映画だと思います。
花火じゃないですが、様々なものの輝き、美しさは、失われる直前に最も輝く様な気がします。日本の景色の美しさも、太平洋戦争で失われる直前である本作の舞台の頃が最も輝いていたのではないでしょうか。その最も美しい日本の姿を映画として再現した作品なのだと思うのです。
という訳で、本作ほど日本の美しさを見事に捉えた映画は他に知りません。時代をこえた日本のあるべき姿(自然、町並)が本作にはあります。美しい日本を知るには本作を観るのが一番です。
しかし現代の日本には、こんな美しさは僅かにしか残っていません。貞之助が最後に見せる涙は、蒔岡四姉妹がそれぞれの道を歩んでいく事に成った寂しさから、というよりも、失われた日本の美に対するものの様な気がします。
唯一音楽だけが野暮ったくて残念ですが、市川にとっても、邦画においても、最高傑作と呼ぶに相応しい名画だと思います。