米国のサキソフォン奏者
オーネット・コールマンのアルバム「
アメリカの空/
オーネット・コールマン」を紹介します。
コールマン作曲の交響曲「アメリカの空」を、コールマンをソリストにロンドン交響楽団(デイヴィッド・ミーシャム指揮)がスタジオ録音したアルバムです。
アルト・サックス奏者として知られるコールマンですが、元々作曲家志望だったが、誰も自分の曲を演奏してくれなかったので自分で演奏する様に成った、という趣旨の発言をしています。
作曲家といっても、所謂ジャズの曲を書いていたものと思われますが、1960年代に作曲家のムーンドッグと知り合い影響を受けたコールマンは所謂クラシック形式の曲を書き始め、1960年代後半から少しずつ発表していました。発表はされていませんが、いくつかオーケストラ曲を書き上げた後、満を持して1972年に発表されたのが本作です。
元々はオーケストラとコールマンのグループが競演する合奏協奏曲の形であったそうですが、諸事情でグループを排し、オーケストラにコールマンのアルト・サックスがソリストとして加わった形に成っています。
また、コールマンはトランペット奏者ジェラード・シュワルツに作曲を手伝ってもらっていたそうで、演奏もシュワルツが所属していたニューヨーク・フィルハーモニックと行うはずだったそうですが、こちらも諸事情で実現しませんでした。それでも、本作録音の為のデモ・テープ作成をニューヨーク・フィルのメンバー達が行ってくれたらしいです。なお、コールマンとニューヨーク・フィルによる「アメリカの空」は1997年に実現しています(録音残ってませんかねぇ)。
コールマン自身の解説によると、この曲は音部記号の無い楽譜で書かれ、演奏者が好きな音部記号を随時当てはめて演奏する、移調楽器も移調せずにそのまま演奏する、という形式に成っているそうです。それだとハチャメチャな音が鳴りそうですが、実際には整った和音と成っており、録音に当たってミーシャムが整然と響くよう音部記号を割り当てたのかもしれません。
本作には21曲もの曲名が表記されていますが、これはレコード会社が付けたもので、コールマンは細かい曲を集めた訳では無く、大きな1曲を作ったものと思われます。
「アメリカの空」というタイトルや音楽から想像するに、コールマンはアメリカの歴史を表現したのではないでしょうか。有史以前から先住民が暮らすのどかな時代を経て、移民が入り込み戦争が起き、人種間の対立も激しく成るが、やがて平和なアメリカと成った、そんな歴史と希望が表現されている様に思うのです。
曲で特徴的なのは打楽器が多用されている事です。ロンドン交響楽団のメンバーによるものかは分かりませんが、ドラム・セット(ドラムス)がジャズ的な語法で常に演奏されます。それと対峙する様にティンパニも常に鳴っています。少々やり過ぎな感もありますが、躍動感こそが曲の命なのでしょう、聴く際は出来るだけ大きな音で鳴らす事をおすすめします。
最初は何とも粗野な和音で始まり、お囃子の様な楽しい主題を経て暴力的な展開をしていきます。そして曲の中盤、パワーが頂点に達する前にソリストのコールマンが加わります。打楽器のみをバックにアルト・サックスを吹きまくるパートが最高に格好良いです。やがて嵐は過ぎ去り、穏やかな曲へと変貌しますが、そこを繋ぐコールマンの無伴奏カデンツァも最高です。あらかじめ書かれたものなのか、完全な即興演奏なのかは分かりませんが、主題を元にして見事にスウィングしています。粗暴だった曲も最後には美しい旋律と和音の曲として駆け抜ける様に終わり、アヴァンギャルドな作品ながら最後は静かに感動出来ます。
けっして心地よいとはいえない音が大半を占めるアルバムですが、大音量で浴びる様に聴けば、その重苦しい音にも意味がある様に感じられる事でしょう。
聴く者のイマジネーションを刺激する、偉大なる実験作品です。