米国のサキソフォン奏者
オーネット・コールマンのアルバム「
フリー・ジャズ/
オーネット・コールマン」を紹介します。
ダブル・カルテットという特異な8人編成で録音された歴史的名盤です。
その編成は、管楽器2人、ベース、ドラムスからなるカルテットを2組合わせたもので、録音的にも左右のチャンネルそれぞれに1つずつのカルテットが位置しています。
まず左側チャンネルのカルテットは、ドン・チェリー(ポケット・トランペット)、コールマン(アルト・サックス)、スコット・ラファロ(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラムス)。右側はフレディ・ハバード(トランペット)、エリック・ドルフィー(バス・クラリネット)、チャーリー・ヘイデン(ベース)、エド・ブラックウェル(ドラムス)で、コールマン・グループの新旧メンバーにハバード&ドルフィーを加えたものです。
フリー・ジャズとはコールマンが生み出した、和音や調性に囚われずに即興演奏を繰り広げる音楽であり、前衛音楽の代名詞的存在です。
そんなフリー・ジャズをタイトルに冠した本作は、ジャケットにあしらわれたジャクソン・ポロックの絵の如く、抽象的な集団即興演奏が収められているかの様なイメージ(確かにそういう部分もあり、ジャケットにもそう書いてあります)がありますが、実際には構成のしっかりした音楽が収められています。
また、常に演奏しているベースとドラムスの4人も、ヘイデンが低音で基本のリズムを弾き、ラファロは高音で装飾を付け、ブラックウェルはヘイデンに合わせた基本のリズム、ヒギンズは倍速のパルス的な演奏と、役割をしっかり分担しています。
その構成とは、基本的に、テーマ(というか合図)、ソリストによる即興演奏、ソリストの即興演奏に他が全員で相槌を入れる(集団即興演奏)、というパターンをソリストを入れ替えながら繰り返すものです。
本作には、その構成で出来た「フリー・ジャズ」という37分間の曲が1曲だけ収録されています。オリジナルのアナログ盤ではA面B面にフェイドアウト、フェイドインで分けて収録されていましたが、CD時代に成ってからは分けられる事無く収録されています(中には分けたまま収録されているCDもあります)。
通常の当ブログのCD紹介では曲毎に紹介していますが、本作は1曲しか収録されていませんので、ソリスト毎に紹介していきたいと思います。
まずはドルフィーのソロ。叫び声の様な音を含む多彩な音色を使い、1人集団即興演奏状態のソロをドルフィーが繰り広げます。他の管楽器3人が相槌的なものを入れて行きますが、ドルフィーの迫力に押されて遠慮気味です。
2番手はハバード。和音に囚われる事はありませんが、調性というかモード的なソロに終始しています。そんなソロなので他の3人も遠慮無く襲いかかっています。
3番手はコールマン。過激なドルフィーとも真っ当なハバードとも違う、真の自由さで気持ち良さげにスウィングしています。他の3人は、そのスウィング感を邪魔しない、文字通りの相槌をうっています。
4番手はチェリー。ちなみにポケット・トランペットとは特別な楽器では無く、普通のトランペットをコンパクトに巻いた(曲げた)ものです。やはり慣れたもので、コールマンと同様に自然に自由に演奏していますが、大人しめな為かリーダーでは無い為か、他の3人も自由気ままに参加して集団即興状態が盛り上がります。
続いては管楽器は休んでベース2人によるソロです。ベースの歴史に燦然と輝く2人の天才が仲良く競演しているのですから余計な解説は要りません、その超絶低音の世界に身を任せるだけです。
最後はドラムス2人によるデュオです。短いですが、それまで地味にリズムを支えていたブラックウェルが派手にリズムを刻むところが格好良いです。
過激な前衛音楽の出発点(1961年発表)とされる本作を、その存在を知りながら聴かず嫌い的に敬遠している方も多いかと思いますが、実際は上記の通り(?)過激さの少ないハッキリとした構成のある音楽です。恐れる事無く、この音楽史の転換点といえる名盤を味わってもらいたいものです。