米国のグループ、
ドアーズのアルバム「
ハートに火をつけて/
ドアーズ」を紹介します。
ドアーズの記念すべきデビュー・アルバムです。
メンバーはジム・モリソン(ヴォーカル)、ロビー・クリーガー(ギター)、レイ・マンザレク(キーボード)、ジョン・デンズモア(ドラムス)の4人で、所謂オルガン・トリオに歌手が加わった編成です。
ドアーズは、ロサンゼルスのUCLAで映画を学んでいたモリソンとマンザレクが結成したバンドで、そこにマンザレク旧知のクリーガーとデンズモアが加わって1965年頃より地元で音楽活動を行っていました。バンドには元々ベーシストが居ましたが、メジャー・デビューまでには辞めており、ベースはマンザレクがキーボードで弾く様に成っていました(ちなみに、本作の殆どの曲ではキーボードでは無い本物のベースが録音されており、そのベースは多重録音でクリーガーが弾いたり、スタジオ・ミュージシャンであったラリー・ネクテルが弾いているのだそうです)。
オルガンを中心にしたサウンドで、インド音楽の影響が大きい短調の暗い曲を中心に、インストゥルメンタルの即興演奏を繰り広げていくスタイルは、現在ではサイケデリック・ロックの先駆け、代表とも考えられています。
即興演奏が主体ながら、クリーガーもマンザレクも超絶技巧的な演奏をするタイプでは無く、速い動きの少ない歌う様な演奏スタイルであり、その落ち着いた演奏がモリソンの破天荒なヴォーカルを引き立てます。
モリソンは歌手というより詩人、歌うというより朗読といったヴォーカルであり、真っ当に音楽的なオルガン・トリオとハチャメチャなヴォーカルという組み合わせがドアーズの魅力だと思います。
その音楽はポール・A・ロスチャイルドに認められ、1966年にエレクトラ・レコードと契約し、ロスチャイルドのプロデュースで作られたのが本作です。
デビュー・アルバムながら殆どはオリジナル曲(メンバー全員による共作となっています)というのは、そのオリジナリティ溢れる音楽性を売りにしており、ポピュラーなヒットは期待していなかった事がうかがわれますが、タイトル曲は大ヒットし、ドアーズは一躍大スターと成ったのでした。
「ブレイク・オン・スルー」バックの3人のクールな演奏に乗せて、モリソンが音程の怪しい絶叫ヴォーカルを聴かせるロック・ナンバー。曲自体はキャッチーなものですが、モリソンによって妖しさ満点の仕上がりに成っています。
「ソウル・キッチン」曲名通りR&Bなノリのリズムで楽器の演奏はタイトに決まっていますが、多重録音で1人2重唱するモリソンは緩いノリです。
「水晶の舟」マンザレクのピアノが印象的な、ミディアム・スローの穏やかな曲。普通なら単に静かな曲で聞き流されそうですが、モリソンの怪しさに引き込まれます。
「20世紀の狐」R&B風味のロック・ナンバーで、クリーガーが中々ノリの良いソロを聴かせます。モリソンが大人しいので普通に聴けます(笑)
「アラバマ・ソング」今ではクルト・ヴァイルの曲の中でも有名曲の1つと成っていますが、それに貢献したのが本録音といえる名演です。2ビートの古風な演奏で、マンザレクはオルガンと共にマーキソフォンも演奏し、20世紀初頭のヨーロッパな感じが出ています。モリソンの歌も雰囲気にピッタリです。
「ハートに火をつけて」今やスタンダード・ナンバーと化しているドアーズの代名詞的大ヒット曲。演奏は即興演奏中心の7分間に渡るものですが、曲自体はポップな出来です。
モリソンの怪しい歌唱を最初と最後に、中間はオルガンとギターのインプロヴィゼーションがたっぷりと入っています。特にクリーガーの、シタールの影響が大きいと思われるギター・ソロが面白いです。
「バック・ドア・マン」ウィリー・ディクスンのカヴァーで、オーソドックスなブルースに仕上がっています。自由のきくブルースではモリソンの破天荒ぶりも自然にハマっています。
「君を見つめて」当時の流行っぽいポップなロック・ナンバー。モリソンは絶叫気味に歌ってはいますが、結構淡泊な印象です。
「エンド・オブ・ザ・ナイト」半音進行を使った妖しい雰囲気漂うスロー・ナンバー。曲の妖しさとヴォーカルの怪しさが相まって、そんなに過激な事はしていないにも関わらず、完全に前衛の世界です。
「チャンスはつかめ」カントリー風味も感じるロック・ナンバー。全体としてはやはり淡泊な印象ですが、マンザレクのオルガンは聴きものです。
「ジ・エンド」演奏時間11分を超える、インド音楽の影響が強く出たロック・ナンバー。クリーガーのギター・ソロを中心にしたインストゥルメンタル曲にモリソンが即興的に歌(というか朗読)を乗せた、という感じで呪術的雰囲気満点です。
この曲といえば後に映画「地獄の黙示録」(フランシス・フォード・コッポラ監督)に使われた事でも広く知られていますが、コッポラはモリソンとマンザレクのUCLAでの同級生だったらしいです。
録音から既に半世紀が過ぎていますが、いまだに過激な前衛性を感じる歴史的名盤です。