英国のグループ、
ザ・ビートルズのアルバム「
ラバー・ソウル/
ザ・ビートルズ」を紹介します。
ザ・ビートルズ6枚目のアルバムにして、後期ビートルズの出発点となる歴史的名盤です。
前作「
4人はアイドル」の発売から2ヶ月後に1ヶ月間で録音されたという、前作までと同じく過密スケジュールの中で急いで作られたアルバムであり、制作のされ方は
前期ビートルズという感じですが、音楽的には次作「
リボルバー」以降に通じるものが色濃くあるのです。
という訳で本作は、前期でもあり後期でもあり、敢えていえば真ん中の1枚といえるものです。
本作の時点(1965年12月発売)でザ・ビートルズはメジャー・デビューから3年程しか経っていませんでしたが、既にアルバムも5枚発表しており、録音ミュージシャンとしてかなり成熟していました。もう、どの様に演奏してどの様に録音すれば自分達の思い描いた通りの曲を完成させられるかが解っていたのです。
プロデューサーは本作でも変わらずジョージ・マーティンですが、ザ・ビートルズ自身も今でいうところのエグゼクティブ・プロデューサー的立場で制作に関わり、本作は以前と違って、隅から隅までザ・ビートルズ自身の意思が反映されたアルバムに成っています。
音楽的には、前期ビートルズの特長である、温故知新といった感じに古き良き音楽を昇華させた明るく楽しいポップな曲に加え、後期ビートルズの特長である、先進的な動きに影響を受けた格好いいロックも登場しています。
さらにはインドの楽器シタールまで自然に使ってみせ、時代だけでなく国境をも超えた音楽の芽生えが感じられます。
世界のアイドル前期ビートルズと、音楽の歴史を変えた偉大なミュージシャン後期ビートルズの姿が本作には同時に聴かれる訳です。
「ドライヴ・マイ・カー」ドライな味わいのロックで、それまでのザ・ビートルズには無いイメージの曲をオープニングに持って来ていることからも本作の以前との異質感が伝わってきます。
ポール・マッカートニーがリード・ヴォーカルですが、同等の音量でジョン・レノンのサイド・ヴォーカル(ハーモニー)が重なり、2人で怒鳴る様な迫力ある歌唱を聴かせます。また、ギターとのユニゾンによるベースの迫力も満点です。
「ノルウェーの森」ジョンが主体となったフォーク・ナンバーで、ジョージ・ハリスンが弾くシタールがさり気なく融合しています。モードを取り入れた作曲、意味深な歌詞と、大人に成ったザ・ビートルズといった感じの名曲です。
「ユー・ウォント・シー・ミー」ポール主体の曲で、3曲目にしてそれまでのザ・ビートルズらしい曲が登場したという感じがします。ユーモラスなコーラスが楽しい穏やかな曲ですが、多重録音によるリンゴ・スターの叩くハイハット・シンバルの切れ味が目立っています。
「ひとりぼっちのあいつ」ジョン主体のポップな曲で、題名に反して(?)ポールとジョージも参加した分厚いコーラスで歌われています。そのコーラスの動きを追っているだけでも面白いですが、歌のバックでのジョン、ソロでのジョージによるギターもなかなか面白い動きをしています。
「嘘つき女」ジョージ主体のシンプルなロック・ナンバー。ジョージが主役の曲ながら、リード・ギターはジョージでは無く、しかもギターですら無く、ポールが音を歪ませたベースで弾いています(普通のベースとの多重録音)。
「愛のことば」ジョンとポールによるハードなロック・ナンバー。曲自体はシンプルなものですがリズムが効いており、特にポールのベースが素晴らしいです。
「ミッシェル」ポール主体の、フランス語を使ったシャンソンを思わせる曲。メロディーは愛らしくキャッチーで演奏も穏やかですが、実は音楽的に複雑な事をやっているという偉大な名曲です。
「消えた恋」曲はジョンが昔作っていたものを本作の為にポールとリンゴが加筆したものです。リンゴが木訥なリード・ヴォーカルを聴かせる脇で、楽しそうに弾かれるカントリー風味のジョージのギターが良い感じです。
「ガール」ジョン主体のフォークというか民謡調の曲。メロディーに息継ぎを取り入れた何ともエロい曲で、歌詞の意味が分かると思わず吹き出してしまう事でしょう。
「君はいずこへ」ポール主体のアコースティックなロック・ナンバー。ドラムスとタンバリンに加えて、何だかパタパタいう音がリズムに入っていますが、これはリンゴがマッチの箱を指で叩いたものらしいです。また、強烈なオルガンもリンゴによる演奏です。
「イン・マイ・ライフ」ジョン主体の穏やかなロック・ナンバーで、感動的な歌詞を美しいコーラスで盛り上げています。中間部のマーティンが弾くピアノ・ソロの音がちょっと特殊ですが、これは半分の速度で録音したものを通常の速度に戻して再生している為なのだそうです。
「ウェイト」ジョンとポールによる疾走するロック・ナンバー。この曲は元々前作のボツ曲で、本作の為に追加録音を加えて仕上げられたものです。その為か前期ビートルズっぽい感じですが、実は前作って本作のほんの4ヶ月前なんですよね。
「恋をするなら」ジョージ主体のポップな曲で、ジョージによる最初の名曲といって良いものでしょう。ポップで美しいサウンドでサラッと聞き流してしまうかもしれませんが、12弦ギターの演奏といい「ノルウェーの森」以上にインドな味わいの曲でもあります。
「浮気娘」ジョン主体の疾走するロックンロール。エルヴィス・プレスリーで知られる「ベイビー・レッツ・プレイ・ハウス」の歌詞を借用したりと、かなり投げやりに作ったらしいのですが、ジョンのキレキレなヴォーカルといい、出来はかなりカッコイイです。
短い活動期間に様々な音楽的表情をみせたザ・ビートルズではありますが、一般的なザ・ビートルズの音楽イメージに最もピッタリなのは本作ではないかと思います。耳が聞こえるなら誰もが聴かなければならないザ・ビートルズの、入門として最初に聴くべきアルバムは本作なのではないでしょうか。