山田洋次監督の映画「
男はつらいよ」を観ました。
公開当時(1969年)の東京都葛飾区柴又が舞台。
車寅次郎(渥美清)は弟分の川又登(秋野太作)と共に的屋をしながら全国を渡り歩いていたが、家出して以来20年振りに故郷である柴又を訪れる。すると帝釈天の祭の最中であり、そこで寅次郎は異母妹のさくら(倍賞千恵子)、亡き両親に代わりさくらと暮らす叔父の竜造(森川信)と叔母のつね(三崎千恵子)と再会する。そのまま実家であり竜造が経営する団子屋とらやへ戻った寅次郎は、翌日さくらのお見合いに兄として参加する。さくらは職場の取引先の社長(石島戻太郎)の息子である鎌倉道男(広川太一郎)と見合いをするが、酔った寅次郎は席を台無しにしてしまう。その事を竜造に責められ喧嘩になった寅次郎は、とらやを飛び出し姿を消す。
1ヶ月後、奈良へ行った寅次郎は、そこで帝釈天住職の御前様(笠智衆)と娘の坪内冬子(光本幸子)と再会する。冬子は奈良へ療養に訪れており、3ヶ月の療養を終え、御前様が迎えに来たところだった。美しく成長した幼馴染みの冬子に一目惚れした寅次郎は、彼女を追う様に柴又へ戻る。
とらやで暮らす様になった寅次郎は、隣の小倉梅太郎(太宰久雄)が経営する印刷工場で働く諏訪博(前田吟)がさくらに想いを寄せている事を知る。博の学歴の低さから当初邪険にしていた寅次郎であったが、その人柄を知り、次第にさくらとの仲を応援する様になる、といったあらすじです。
同名のテレビドラマの映画版で、ドラマで脚本を担当していた山田が監督し、渥美、秋野、森川以外のキャストを一新(佐藤蛾次郎は役柄変更)して作られています。しかし、そのドラマは映像の殆どが失われているそうで、私は観た事がありません(そもそも生まれる前の話ですし)。
本作は1作のみのつもりで山田は制作したらしいですが、その後、渥美主演で48作まで作られ、渥美の没後も2作公開されています。私も子供の頃から、その男はつらいよシリーズを数多く観ているのですが、肝心な本作を観た憶えが無く、今回機会があったので観てみました。
観て感心したというか、納得したというか、本作は完璧なまでに完成されています。その後無数に続編が作られる位に、完成された型があるのです。
内容的には1作で終わってもおかしく無いのですが、本作のキャラクター達には、もっと色んな姿を見せて欲しい魅力があります。といっても、本作が物足りないという訳では無く、半世紀以上過ぎた現在の目で観ても、笑いと人情に溢れた名作です。
そんな魅力的なキャラクターの中でも、出番は短いですが、志村喬演じる博の父飈一郎が最高です。キャラクターが良いというか、志村の演技が素晴らしい。
短い出番で、飈一郎と博父子の長い歴史を感じさせる深い演技は感涙ものです。名演、名優とはこういうものだという、お手本の様な存在です。
我々以上の世代にとっては、余りにありふれていた映画シリーズの1つであり、若い人達にとっては、昔大量に作られていたコメディ映画の1つ、という存在でしょうが、未見の方には是非偏見の無い目で観て頂きたい。心の故郷の様な名画です。