リチャード・リンクレイター監督の映画「
スキャナー・ダークリー」を観ました。
近未来の米国カリフォルニア州アナハイムが舞台。
物質Dと呼ばれる麻薬が蔓延し、人工の2割が中毒者と成っている状況を危惧した米国政府は、ハイテクを駆使した潜入捜査組織を立ち上げる。捜査官はスクランブル・スーツという見た目がランダムに変わり、性別すら判別出来ない特殊なスーツを着用し、お互いに正体を知らないまま働いていた。
ボブ・アークター(キアヌ・リーブス)は、物質D常習者のジム・バリス(ロバート・ダウニー・Jr)とアーニー・ラックマン(ウディ・ハレルソン)と共に暮らし、恋人のドナ・ホーソーン(ウィノナ・ライダー)は物質Dの売人であったが、フレッドという名前で潜入捜査官として働いていた。アークター自身も物質Dに依存し、仕事にも支障を来す様に成っていたが、裏の顔があるとして密告のあったアークター自身を監視するよう指令が下る。アークターが自分であり物質D中毒者であると気が付かれぬよう仕事をするフレッドであったが、自分を密告したのがバリスであると知る、といったあらすじです。
フィリップ・K・ディックの小説「暗闇のスキャナー」をアニメ化した映画です。アニメーションの中でも、ロトスコープと呼ばれる、実写の上に絵を描いて実写の動きをアニメに取り入れる、という技法が使われています。
ロトスコープは古くからある一般的な技法で、ディズニーアニメでも多く使われていますが、本作の場合はほぼ実写で、絵の様に着色された人物が動き回る、といった仕上がりです。もしかしたら、スクランブル・スーツをロトスコープで表現しようとして、実写に馴染まなかったので全編ロトスコープにしたのかもしれません。
そのスクランブル・スーツは見た目がウネウネと変わり続けるのですが、普通の人物に塗られた色も安定せず、全体が麻薬中毒者の見た世界といった、不安と狂気が入り交じった世界に成っています。
基本の色彩は明るく、アークター達の暮らしは能天気ですが、それを不安と狂気で包み込む事によって、麻薬の恐ろしさを見事に表現していると思います。
それにしてもダウニー・Jrの演技が面白過ぎます。本人が薬物問題を度々起こした人(本作公開の2006年時点では完全に断っていたそうですが)なので、リアルさはこの上ないのでしょうが、痛々しさよりも滑稽さが際だっています。
この怪演、ロトスコープの下からも伝わって来ますが、是非ロトスコープされていない状態でも観てみたいですねぇ。せめて特典映像ででも実写バージョンを世に出してもらいたいものです。