山崎貴監督の映画「ゴジラ-1.0」を観ました。
1945年の太平洋戦争末期、特攻隊員の
敷島浩一(
神木隆之介)は零戦で特攻に向かう途中、零戦が故障したとして
大戸島の守備隊基地へ着陸する。しかし整備兵の
橘宗作(
青木崇高)に、特攻を止め、逃げて来たことを見抜かれてしまう。その夜、守備隊基地は大きな肉食恐竜の様な生物に襲われる。その生物は
大戸島に伝わる
怪獣ゴジラと思われた。
橘は
敷島に零戦で
ゴジラを殺すよう促すが、
敷島は零戦に乗り込んだものの恐怖の為に動くことが出来ず、守備隊基地に居た人間は
橘と
敷島以外、
ゴジラに殺されてしまう。
終戦後の冬、敷島は両親が待つ東京へ帰るが、両親は空襲で亡くなっていた。敷島は自宅の焼け跡にバラック小屋を建てて生活を始め、闇市で大石典子(浜辺美波)と出会う。典子も戦争で家族全員を失っていたが、空襲の最中に預かった赤子の明子を抱えていた。典子は明子と共に敷島の家に転がり込み、敷島は隣家の太田澄子(安藤サクラ)の助けを借りながら、共に明子を育てる事となる。
敷島は明子の養育費の為、高額の給料が出る機雷撤去の仕事に就く。秋津淸治(佐々木蔵之介)が艇長を務める木造の特設掃海艇「新生丸」に、野田健治(吉岡秀隆)、水島四郎(山田裕貴)と共に乗り込み、敷島は射撃の才能を発揮して、順調に仕事をこなしていく。
1947年、典子は銀座で働き始め、明子(永谷咲笑)は物心がつき始めていたが、相変わらず敷島は二人と他人として同居していた。新生丸の同僚達の勧めもあり、敷島が典子との結婚を考え始めた頃、太平洋で米国の船舶が謎の巨大生物に破壊される事件が続発する。巨大生物は日本に向かっており、シンガポールで接収されていた軍艦「高雄」が対処する事と成った。高雄が日本へ到着するまでの間、新生丸が回収した機雷で時間稼ぎをする事と成り、巨大生物出現現場へ向かうが、敷島達の前に現れたのは以前よりも遙かに巨大化したゴジラだった、といったあらすじです。
ゴジラを愛する次男(中2)のたっての希望で、公開初日(11月3日)に地元で一番大きな劇場で観てまいりました(最近非常に筆不精で、記事の完成に時間が掛かりました)。
私個人は、山崎監督の作品に食わず嫌い、観らず嫌いなところがありまして、本作には全く期待していなかったのですが、ゴジラ映画としては最高の作品でした。
なんといっても本作のゴジラは怖いのです。冒頭の小型(といっても人間からみれば大型)のゴジラから相当な恐怖感で、機銃は撃てなかったものの、零戦まで移動して乗り込んだだけでも敷島は相当な勇者だと思います。
巨大化して再登場以降は、人間目線を多用していることもあり、純粋に大きさから感じる恐怖も味わえました。
事前に発表になっていた造形を見た時点では、下半身が太い不格好な
ゴジラだと思っていたのですが、映画の中では格好良かったです。私の中で一番格好良い
ゴジラは「
ゴジラ」(
橋本幸治監督)の
ゴジラですが、本作の
ゴジラはそれに次ぐ格好良さといって良いでしょう。
そして本作は神木の名演に尽きますね。私は夫婦でNHKの朝ドラ「らんまん」を観ており、本作は同じく神木と浜辺が主演という事で、そこは期待していました。
本作の役者達の撮影は「らんまん」より前だったそうですが、神木の名演は本作でも素晴らしかったです(浜辺は「らんまん」で開花したのですね)。彼は平成生まれの若者なのですが、本作では初期のゴジラ・シリーズに出演していた様な、昭和の二枚目スターの雰囲気を醸しだしつつ、敷島というキャラクターを生きた人間として体現していました。
本作の脚本には難があると思うのですが、神木の作り出した敷島のお陰で鑑賞に堪えうるものに成っているといっても過言では無いでしょう。
とにかく、出来るだけ大きな画面と大きな音で「体験」すべき作品です。
英国の歌手FKAツイッグスのアルバム「Magdalene/FKAツイッグス」を紹介します。
2019年に発表された、ツイッグス2枚目のアルバムです。
前作「
LP1」から5年程の時間が空いていますが、その間もEPの「
M3LL155X」を発表するなど精力的に活動していた様でした。しかし、後に分かった事ですが、本作制作の前に
ツイッグスは闘病と失恋という試練に立ち向かっていたのです。
本作には、その試練に立ち向かい、再生したツイッグスの経験が強く反映されていると思います。表面的には陰鬱な感じですが、根底には力強さがあるのです。また、音楽的にも歌唱力的にも、以前のものが稚拙に感じる程レベルアップしています。大きな試練を経た彼女の成長、音楽家としての完成を感じます。
作曲、制作共にツイッグスが中心になって行っていますが、殆どの曲でニコラス・ジャーが共同作業に加わっています。
これまでのツイッグスの音楽と同じく、プログラミングによるエレクトリックなビートが使われていますが、中心になっているのは彼女の声であり、生の楽器も加わり、アコースティックな味わいも強くなっています。
なお、本作は日本盤が出ていますが、曲名の日本語表記が無いので、以下の曲名は私が独自にカタカナ化したものです。
「サウザンド・アイズ」ジャーとの共作で、プロデュースはジャーによるもの。古い聖歌の様なツイッグスによる静かな合唱に、インダストリアルなビートが加えられています。高音を駆使したツイッグスの歌唱に圧倒されます。
「ホーム・ウィズ・ユー」イーサン・P・フリンとの共作、プロデュースはジャーと共同。フリンによるアコースティックな楽器にノイジーなエレクトリック・ビートが加わった作りですが、やはりツイッグスのヴォーカルに圧倒されます。すすり泣くかの様な高音ボーカルの美しさは鳥肌ものです。
「サッド・デイ」コアレス、ベニー・ブランコ、カシミア・キャットとの共作。プロデュースはブランコ、ジャー、スクリレックスと共同。曲名は悲しげですが、本作では最も明るくポップな曲です。激しいパートもありますが、エレクトリックなビートにのせて、ツイッグスがキャッチーなメロディを可愛らしく歌っています。
「ホーリー・テレイン」フューチャー、コアレス、ジャック・アントノフ、サウンウェーヴ、スクリレックス、プー・ベアとの共作。プロデュースはアントノフとスクリレックスと共同。ブルガリア国立放送合唱団による「Moma Hubava」(ペタル・リオンデフ作曲)がサンプリングされています。
エキゾチックな味わいも加えた抑えたエレクトリック・ビートにのせて、ツイッグスがストレートな歌唱を聴かせます。フューチャーの歌唱に近いラップも聴かれます。
「メアリー・マグダレン」ブランコ、ジャー、カシミア・キャットとの共作。プロデュースはブランコ、ジャーと共同。インダストリアルなサウンドを含んだビートにのせて、ツイッグスが力強い歌唱を聴かせます。
「フォールン・エイリアン」フリン、Cy An、ジャーとの共作。プロデュースはジャーと共同。フロリダ・マス・クワイアによる「ストーム・クラウズ・ライジング」がサンプリングされています。ピアノを中心とした静かなアコースティック・サウンドに、激しいエレクトリック・ビートや加工された合唱を差し込むドラマティックな曲で、ツイッグスのヴォーカルも見事です。
「ミラード・ハート」フリン、Cy An、コアレスとの共作。プロデュースはコアレスと共同。抑えたエレクトリック・ビートによるモノクロな印象の曲ですが、地声とファルセットを使い分け、まるでデュエットしているかの様なツイッグスのヴォーカルはカラフルです。
「デイベッド」ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによるプロデュースで、曲はツイッグスと共作。アンビエントなサウンドにのせて、ツイッグスが囁く様に歌っています。様々な音やツイッグスの声がコラージュ的にちりばめられ、まるで夢を見ているかの様な仕上がりです。
「セロハン」ジェフ・クラインマンとマイケル・ユゾウルと共に作曲プロデュースした曲。ピアノやストリングスによるアコースティックな演奏に、僅かなエレクトリック・サウンドや、ユゾウルによる囁くようなヴォーカル・パーカッションが加えられた美しい曲。そして曲以上に美しいのが、変幻自在なツイッグスのヴォーカル。アルバムの締めくくりに相応しい、白眉といえる名曲です。
本作は今のところ、ツイッグスの最高傑作であると思うのですが、私が聴いた限りでは、聴く度に涙を禁じ得ない、21世紀に人類が生み出した音楽の最高傑作であると思います。
雨宮哲監督の映画「グリッドマン ユニバース」を観ました。
テレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」の数ヶ月後の世界が舞台。高校2年生の響裕太(広瀬裕也)は数ヶ月前、ハイパーエージェントのグリッドマン(緑川光)と一体化して怪獣達と戦い世界を救ったが、その間の記憶を失っていた。裕太がグリッドマンだった間、共にグリッドマン同盟として戦った同級生の内海将(斉藤壮馬)と宝多六花(宮本侑芽)の2人は、世界で唯一グリッドマンの戦いの記憶があり、学園祭でグリッドマンを演劇化して上演しようとしていた。裕太は2人とは別のクラスになっていたが、演劇の脚本作りを手伝いながら、学園祭で六花に告白しようと目論んでいた。ある日、突如怪獣が現れ暴れ始める。駆け付けた新世紀中学生のサムライ・キャリバー(高橋良輔)、マックス(小西克幸)、ボラー(悠木碧)、ヴィット(松風雅也)の助けもあり、怪獣に破壊される街をくぐり抜け、裕太はジャンクショップの絢にたどり着く。絢のパソコンのジャンクにはグリッドマンが戻っており、裕太は一体化して怪獣に立ち向かう。しかし、裕太にグリッドマンだった記憶が無い為か、怪獣に苦戦して窮地に陥る。すると新世紀中学生のレックス(濱野大輝)が変身したダイナゼノンが現れ、グリッドマンと共闘して怪獣を倒す。レックスは別世界でガウマという名前でダイナゼノンに乗り込んで怪獣と戦ったのだが、共に乗り込んでいたガウマ隊の麻中蓬(榎木淳弥)、南夢芽(若山詩音)、山中暦(梅原裕一郎)、飛鳥川ちせ(安済知佳)も裕太達の前に現れる。宇宙にはビッグバンにより様々な平行世界が生まれたが、平行世界が再び1つに重なるビッグクランチが起こりつつあり、世界が消滅するのではと考えられた。裕太達はビッグクランチを防ぐ方法が分からないまま、次々と現れる怪獣達と戦っていく、といったあらすじです。
テレビアニメ「SSSS.GRIDMAN」及び「SSSS.DYNAZENON」の続編となる劇場版アニメです。我が家では「SSSS.DYNAZENON」放送時に共に「SSSS.GRIDMAN」から観始めました。子供達(もうすぐ高2&中2)はすっかりのめり込み、インターネットでテレビアニメの元となったテレビドラマ「電光超人グリッドマン」の情報も集めていた様です。という訳で、子供達の希望で前売り券を買い込み、公開初日に舞台挨拶中継付きで観てまいりました。舞台挨拶中継は私は初体験でしたが、大変面白いものでした。
肝心の映画本編はといいますと、少なくともテレビアニメを観ていなければ解らない内容ではありますが、アニメ映画の極致といえる傑作だと思います。特に戦闘シーンの迫力は素晴らしい。グリッドマンや怪獣は巨大なのですが、それを人間目線で下から見上げるアングルで戦いが展開され、映画館の大画面に映えまくりです。クライマックスの戦闘なんて、クライマックスにクライマックスがこれでもかと重ねられ、腰が抜けそうなくらい圧倒されました。
そして声優達の演技が素晴らしいのです、特に主演の広瀬には感動しました。テレビアニメ未見の方にはネタバレですが、裕太達の世界は新条アカネ(上田麗奈)が作り出した人工物であり、そこに暮らす裕太達人間もアカネの創造物なのです。それでもアカネは裕太達が生きていることを認めてか、裕太達の世界は続くことになったのですが、本作での裕太は生々しいまでに生きているのです。声だけでこんなに生命を感じさせる事が出来るのかと感心しました。私はそんなにアニメや声優に詳しい訳ではありませんが、それでも本作の裕太と六花の告白シーンは声優史の金字塔だと思います。
とにかく急いでテレビアニメをおさらいし、劇場に足を運んで観るべき傑作です。